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落ち込み⑥
この夫 は…どうしてこんなに優しいんだろう。
自分でも訳の分からない俺の想いもさらりと受け止めて、大事な式を延期するとまで言っている。
だってさっき『ものすごく意味のある時間』って言ったよね!?
『その時間を俺にくれ』って言ったよね!?
継にとって大切に思うことを俺は台無しにしようとしてるんだよ!?
俺からは戸惑いや不安、焦りや嫌悪といった匂いが途切れることなく出ていて、自分でもこの感情を持て余してどうしていいのか分からず、軽いパニックを起こしている。
それでも促されては、一口、また一口と、甘いホットミルクを身体に流し込むうちに、涙が止まっていた。
随分と時間をかけて、カップを空にして、小さな声だけれどもお礼を言った。
「ご馳走様でした。
継、ありがとうございました。」
継は、空になったカップをひょいっと掴むと
「どう致しまして。」
と言いながらシンクに片付けに行った。
そして再び俺の側に来ると
「さぁ、温まったらベッドに行こうか。」
俺の返事を待たずに姫抱きにすると、スタスタと寝室へ運んでしまった。
壊れ物を扱うようにゆっくりと下ろされ、甘い声でささやかれる。
「何も手を出さないから抱き合って寝よう。」
ぼんやりしている間に一糸纏わぬ姿にされ、汗で少し湿った継の身体に包まれた。
いつもの継の甘くセクシーな匂いが、鼻から肌から浸透してきて、思わず身震いする。
頭を撫でられ、背中を摩られ、顔中に降る唇の感触に恍惚となり、段々と途切れていく意識の中、継が耳元でささやく声が聞こえた。
「どんなお前でも愛してるよ」
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