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落ち込み⑦
甘く、優しい匂い…
ゆっくりと瞼を開けると、継が俺に背中を向ける格好でベッドに腰掛けていた。
「…継?」
俺の声に振り向いた継は、布団ごと俺を抱きしめた。
いつもと変わらない匂いと態度。
「おはよう、詩音。よく眠れたか?」
こくんと頷く俺にキスを一つして、朝ごはん作ってくるよ、と言い残すと部屋を出て行ってしまった。
はっきりと覚醒してくるにつれ、昨夜のわがままが、如何に継を傷付けたのかを自覚してきた。
あんなに俺のことを…いいや、俺だけでなく俺の両親達のことも思い遣ってくれていたのに。
俺って、俺って、何て自分勝手なんだろう…
俺のことを一番に思って、大事な式さえも延期するって…
どうしよう、どうしたら許してもらえるんだろう。
どうして嫌なのかも自分でもわからない。
とうとう頭がおかしくなってしまったのか。
ひたすらに自分を責め続け、また泣いていた。
「詩音、ご飯できたから食べるぞー!
起きておいでー!」
俺は布団に包まって声も出さずに泣いていた。
「詩音、ご飯できたから食べるぞー!
起きておいでー!」
呼びに来た継は、俺を起こすために肩を抱こうとした。
その手を遮って布団に潜り込む。
「…詩音?」
悲しげな継の顔。
ごめんなさいって言わなくちゃ。
わかってるのに…継の気持ちはわかってるのに…傷付けてごめんなさいって。
ふるふる震えながら継に手を伸ばそうとしたその時
「…そうか…一緒に食べるのも辛いのか…
…ん、わかった。詩音の分ここに持ってくるから待ってて。」
悲しげに微笑むと、継は すうっと俺から距離を取った。
違う!
違うよ、継!
そうじゃない!そうじゃないんだっ!
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