287 / 829

落ち込み⑦

甘く、優しい匂い… ゆっくりと瞼を開けると、継が俺に背中を向ける格好でベッドに腰掛けていた。 「…継?」 俺の声に振り向いた継は、布団ごと俺を抱きしめた。 いつもと変わらない匂いと態度。 「おはよう、詩音。よく眠れたか?」 こくんと頷く俺にキスを一つして、朝ごはん作ってくるよ、と言い残すと部屋を出て行ってしまった。 はっきりと覚醒してくるにつれ、昨夜のわがままが、如何に継を傷付けたのかを自覚してきた。 あんなに俺のことを…いいや、俺だけでなく俺の両親達のことも思い遣ってくれていたのに。 俺って、俺って、何て自分勝手なんだろう… 俺のことを一番に思って、大事な式さえも延期するって… どうしよう、どうしたら許してもらえるんだろう。 どうして嫌なのかも自分でもわからない。 とうとう頭がおかしくなってしまったのか。 ひたすらに自分を責め続け、また泣いていた。 「詩音、ご飯できたから食べるぞー! 起きておいでー!」 俺は布団に包まって声も出さずに泣いていた。 「詩音、ご飯できたから食べるぞー! 起きておいでー!」 呼びに来た継は、俺を起こすために肩を抱こうとした。 その手を遮って布団に潜り込む。 「…詩音?」 悲しげな継の顔。 ごめんなさいって言わなくちゃ。 わかってるのに…継の気持ちはわかってるのに…傷付けてごめんなさいって。 ふるふる震えながら継に手を伸ばそうとしたその時 「…そうか…一緒に食べるのも辛いのか… …ん、わかった。詩音の分ここに持ってくるから待ってて。」 悲しげに微笑むと、継は すうっと俺から距離を取った。 違う! 違うよ、継! そうじゃない!そうじゃないんだっ!

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!