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落ち込みside:継⑤

ぶんぶんと勢いよく首を横に振った詩音は何か言おうとするけれど、感情が昂ぶって声にならないのか口をパクパクしていたが、やがてぽろぽろと涙を零し始めた。 「詩音?…おいで…」 大きく腕を広げて(いざな)う。 ぽすん と俺の胸に飛び込んできて、俺の匂いをひたすら嗅ぐ詩音からは、甘く芳しい、それでいて悲しみと切なさと後悔、そして深い謝罪の混じった匂いがしてくる。 「ぐっ…違うっ…違うの…ひぃっく…違うの… ごめん…なさいっ…ひぐっ…ごめんなさいっ」 やっと言葉を発した。 それも謝罪の言葉だけを口にする詩音は泣き崩れた。 詩音の頭を撫で、身体を摩ってやり、溢れ続ける『ごめんなさい』の匂いを胸が潰れそうな思いで感じ取っていた。 しばらくすると、しゃくり上げる詩音の声が小さくなってきた。 それでも、まだ『ごめんなさい』という匂いは溢れかえっていた。 「気が済むまで泣いたか? もう『ごめんなさい』は言わなくてもいいぞ。」 詩音は大きな目を瞬かせ、 驚いたように俺を見つめた。 俺はその顔を覗き込み、親指でそっと涙を拭ってやった。 「何で?どうしてわかったの?」 「お前のことなら何でもわかるんだぞ。 番を舐めるな。」 くっくっと喉を鳴らして笑うと、詩音は気不味そうに俯いた。 「俺は詩音の望むようにしてやりたい。 詩音はどうしたいんだ?」 溢れる愛おしさで抱きしめると、詩音はまたぽろりと涙を零した。 「あっ、泣くな!詩音、泣かないでくれ! 責めてるんじゃないんだ! あぁ…泣かせるつもりなんてなかったのに…」

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