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矛盾する想い⑤

継は、いつになく俺様オーラがなくなってる。 それに…匂いも違ってる… 「さぁ、帰ろうか。」 「…継?篠山さんにお見舞いお届けしたらダメですか? 何か口当たりの良いものでも奥様にお渡しして…」 「そうか…そうだな…詩音、よく気が付いてくれたね。 帰りに寄せてもらうとしよう。何がいいだろう…」 「果物とかゼリーとかでしょうか?」 「じゃあ、色々詰め合わせてもらおう。」 俺達はデパートに寄ると、あれこれ相談しながら選び、綺麗にラッピングされた籠を持って、篠山さんのお家に向かった。 「あら、まぁ、どうしましょう! わざわざ社長さんに詩音さんまで…さぁ、どうぞお上り下さい!」 継は、慌てふためく奥様を制して 「いつも篠山さんに助けてもらってばかりで申し訳ありません。 これをお渡しに来ただけなので…ここで結構です。お気遣いなく… どうか早くお元気になって下さいとお伝えいただけませんか?」 「まぁ…かえってご迷惑をお掛けして申し訳ありません。……鬼の霍乱で…大分熱も下がってきたんですよ。 ご丁寧にまぁ…本当にありがとうございます。 お上がり下さったらいいのに…」 「いいえ、では失礼致します。」 奥様はえらく恐縮されていたが、継が押し付けてきた…感じだった。 「詩音様…」 「はい。」 「お心遣いありがとうございます。主人も喜びますわ。」 「いいえ!ゆっくり養生なさって下さいね。 どうぞお大事に。また元気なお顔で出社されますように…」 「ありがとうございます。必ず申し伝えます。」 帰りの車の中で、継は何か考えているようだった。 声を掛けたくても、そのオーラと匂いが俺をやんわりと拒否していた。

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