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矛盾する想い⑦

継は…横になっていた。 俺はゆっくりとベッドに上がり、布団に滑り込んだ。 「詩音…」 甘くて愛おしい匂いが降り注いでくる。 あぁ…今夜も身体中愛撫されキスされて、あの剛直の楔で貫かれて勢いよく果ててしまうのだろう… どきどきしながら 「はい…」 と返すと 俺を抱きしめキスをして 「お休み。」 と言って目を瞑ってしまった。 え…あれ? キス…だけ? 甘い匂いはそのままに、手を出されずに抱き込まれて、肩透かしを食らった感じ。 焦れた心と熱を帯びた身体は置いてきぼりにされ、仕方なく継の胸に擦り付いて、悶々としたまま瞳を閉じた。 朝、目覚めると、もう継の姿はなく、寝過ごしたのかと慌てて時計を見ると、まだ起きる時間には到底早かった。 継?どこに行ったの? 急いで部屋を出ると、少し空いた書斎のドアから光が漏れていた。 遠慮がちに声を掛けた。 「継?こんなに早くからどうしたんですか?」 「あぁ、詩音…ごめん、起こしてしまったか? 気になる仕事があったから、どうしても… ごめん、俺のことは気にしないで休んでてくれ。」 やんわりと拒絶の言葉と匂いがする。 諦めて寝室へ戻りかけたが、思い立ってキッチンへ行き、コーヒーを入れるともう一度継の元へ戻った。 「継…よかったらどうぞ。」 「悪いな…結局世話をかけてしまったな。 ありがとう。」 微笑みは返されたが、会話はそこで終了してしまった。 俺は仕方なくとぼとぼと寝室に戻り、継の匂いの残る布団に(くる)まった。 すんすんと匂いを嗅ぐと、愛しい夫の残り香がする。

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