319 / 829

矛盾する想い⑨

頭から熱いお湯に打たれながら、ぐるぐる思考が回っている。 自分で…継のことを考えながらしちゃった… いつも構われると『嫌だ』『ダメ』とか言うくせに。 俺にも押さえきれない性欲ってあったんだ… これって…おかしい? こんないやらしい俺を継は嫌いにならないだろうか… いや、健全な男子なら当たり前のこと… だって、俺は継を愛してるから。 とにかく汗と吐き出したモノを綺麗に洗い流して、身支度を整えバスルームを出た。 寝室のドアを開けた途端に、俺のフェロモンの匂いが纏わり付いた。 慌てて窓を開けて換気する。 その間にシーツも布団カバーも新しいものに替えて、洗濯機に放り込んだ。 ベッドメイクを終えて布団に包まったが、継の匂いがなくなっていた… 「…継…継…」 ポロリと零れた涙がシーツに染みを作っていく。 「呼んだか?」 飛び上がるほど驚いて、布団から顔を出すと… 愛おしい夫が甘い匂いを振り撒いて、そこにいた。 「…泣くほど…俺がほしいのか?詩音…」 ぎしりと音を立ててベッドに乗り上げてきた夫は、身体中からフェロモンを撒き散らしている。 布団を勢いよく捲り上げ、俺をきつく抱きしめると 「一人にしてすまない…焦ってたんだ。 篠山さんがいない一日、段取りが悪くて仕事が進まなくて…俺はいかにあの人に頼り過ぎてたのかが、よくわかった。 篠山さんの負担になってないと、勝手に自負して自惚れてた。 俺は社長としてまだまだ…井の中の蛙だった。 必死で学んで追いつかないとダメだと思ったんだ。 でも、そんなことは付け焼き刃的なことでは身に付くはずはないんだ。 挙句に大切なお前に寂しい思いをさせてしまった。 情けない夫でごめん。 ごめんな、詩音…」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!