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嫁の自覚⑦
ドンドンドン!!!!!ガチャガチャッ!
「詩音!詩音!開けてくれ!
俺が悪かった…謝るから…ごめん!
詩音…開けてくれよぉ…詩音…
揶揄ってごめんよぉ…しおーん…」
洗面所に籠城した俺は、汚れた身体を清めようと、継の呼び掛けを無視してバスルームに入った。
こんな朝っぱらから何度シャワーを浴びなくちゃいけないのか。
あー、もう、やだっ。
ボディソープの泡と一緒に、この気持ちも流れていってしまえばいい。
洗い終えて鏡を見れば。
何とも不細工な顔をした俺がいた。
素直になった途端にこれだ。
こんな思いをするのなら、今まで通りの方がいいんじゃないのか。
ドアの隙間から、継の匂いがする。甘いけど反省と焦燥と不安とが入り混じった匂い。
まだいるんだ。
ここから出られないじゃないか。
床に座り込んでドアにもたれた。
ドア一枚隔てて継を感じる。
きっと継も同じように座ってるんだろう。
もうムカついて思いっ切り叫んだ。
継のばかっ!
意地悪!
いけず!
変態!
スケベオヤジ!
嫌い…大っ嫌い!
ちょっとスッキリした。
あ…今何時だろう…いつもの起床時間の10分前!
ご飯とお弁当の支度しなくちゃ。
遅刻したら大変だ。
そっと鍵を開け、ドアを開けると…
継がソファーで膝を抱えて蹲っていた。
知らない!許さないもん。
微かな物音に気付いた継が飛んできて、抱きつこうとした。
「触らないでっ」
継は、俺の大声にビクッとしてフリーズした。
その横を通り過ぎてキッチンに向かうと、急いで支度を始めた。
「詩音…」
継は、それ以上何も言わず何もせず、じっと俺を見つめていた。
無言の朝食。
無言の車内。
重苦しい空気の中で、困惑と拒絶の匂いが入り混じる。
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