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嫁の自覚⑨
待ち兼ねた退社時刻。
タイムカードを押す時間ももどかしく、社長室へと走る。
息を切らして飛び込んだ俺を愛おしい獣が迎えて抱きしめてくれた。
「詩音、帰ろうか。」
「はい!」
手を繋ぎ指を絡ませ車に乗り込むと、即座にキスされた。
つ…と離れていく継の瞳には、まだ哀しみが残っている。
「…買い物はいいのか?」
「今日は大丈夫です。」
「…そうか…じゃあ家に直行する。」
行きと同じく無言の車内。
でも。
違うのは二人が纏う匂い。
黙ったまま車を降りて指を絡ませ歩き、玄関の内鍵を掛けた瞬間、継が覆い被さるように抱きしめてきた。
俺はそっと…その広い背中に手を回し、抱きしめた。
ゴメン
アイシテル
ゴメンナサイ
アイシテマス
交わる匂いが愛おしい。
…名残惜しいけど、いつまでもここにいる訳にはいかない。
「…継、俺、ご飯の用意をしたいです。」
「…あぁ、そうだな…わかった。」
拘束を解かれてため息をついた。
心臓がバクバク音を立てている。
先にお風呂の準備をして…継に先に入ってもらう。
ジャケットを脱ぎネクタイを外してダイニングの椅子に掛けると、キッチンへ向かった。
食材は十分にあるから見繕って手早く調理する。
二人分のお弁当箱を片付けて、明日の仕込みも完了させた。
今朝…どうしてあんなに腹が立ったんだろう。
今まで言ったことのない言葉を腹立ち紛れに叫んだし。
あれ、絶対継に聞こえてたはず。
…俺の中で何かが変わってる?
「詩音、洗い物は俺がするから、早く入っておいで。」
「え…でも。」
「いいから。ゆっくり入っておいで。
その方が落ち着いて食べれる。」
追い立てられるようにしてバスルームに連れて行かれた。
仕方なく後はお願いして、ゆっくりさせてもらう。
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