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嫁の自覚⑩

俺自身、違和感を感じるほどの変化に戸惑っていた。 自分の思っていることをあからさまに吐き出すなんて。 戸惑いながらも着替えてキッチンへ戻ると、もうすっかり食卓が整えられていた。 『美味しい、美味しい』を繰り返し、うれしそうにお代わりをする継にホッとしながらも、俺の心は『罵声を浴びせてゴメンナサイ』という気持ちで満タンだった。 片付けてリビングに行くと 「詩音、ちょっと付き合え。」 と、ワイングラスを渡された。 濃いボルドーの液体は、馥郁(ふくいく)とした香りを充満させ、俺はその香りだけで酔ってしまいそうだった。 一口含むと、濃厚でそれでいてさっぱりと飲みやすい口当たりで 「…美味しい…」 と呟けば、継は満足気に笑った。 継はゆっくりと俺の手を引いて膝に座らせ、髪の毛を梳きながら 「今朝は本当にすまなかった…虐めるつもりなんてなかったんだ。 ただ…素直になってかわいく乱れる詩音を征服したかったんだ。 締め出されたのは辛かったぞ。 でも…ドアの向こうで叫んでたお前の声を聞いて、凹んだけどうれしかった。 やっと心の扉が開いた って。 詩音、もう、お前は大丈夫だよ。 自己否定に縛られてた過去の詩音と決別できたんだ。 自信を持って前を向いて進めばいい。」 「…継…」 あぁ…違和感の正体はこれだったのか。 今までの俺とどこか違う、変わったことに対する居心地の悪さと戸惑い。 そうか…継が教えてくれたように、俺は俺らしく進めばいいんだ。 継を支えて支えられ、守り守られて。 そして、何よりも、継を愛し愛されて… 共にこの人生を寄り添い歩み行く。 麻生田 詩音 として。 継の嫁として。

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