331 / 829
夫の自覚①
side :継
長年 詩音を苦しめていた自己否定の心の扉が、やっと、やっと開いた。
あまりにうれし過ぎて舞い上がり…苛め過ぎて怒らせてしまった…
学習能力のない俺…最低…何度繰り返せば頭に入るんだろう。
その度に詩音を苦しめ傷付け泣かせている。
お袋や伊織さん達の耳に入れば、きっと、俺は立ち直れないほど叩きのめされる。
下手したら、お袋の怒りの鉄拳が飛んでくるかもしれない。
今でさえ…どうにもならない状況に、この俺が対処できなくてオロオロするばかりなのに。
他のことなら難なくクリアしていくのに、詩音に関することになると、さっぱりだ。
鍵を掛けられるのは初めてじゃないからある意味慣れたが(それでもかなり傷付いて凹む)、あんな大声で叫ばれたのは初めてかもしれない。
それにもかなりダメージを喰らっている。
『継のばかっ!
意地悪!
いけず!
変態!
スケベオヤジ!
嫌い…大っ嫌い!』
…確かに、確かに…しつこかった。
反省している。
素直になった詩音が愛おしくて、そのかわいい口から卑猥な言葉を言わせたかっただけ。
そうだよ。
俺はただの変態だよ。
無言の上に、怒りと拒絶の匂い。
自分が蒔いた種とはいえ辛い。辛過ぎる。
あぁ、そろそろお昼か…詩音はここに来てくれるだろうか。
携帯を取り出し、メッセージを送る。
『お昼はこっちに来てくれるかな?』
既読後、しばらくして返信があった。
『ごめんなさい。行きません。』
何!?
『行け ません』じゃなくて『行き ません』!?
ハッキリと意志を持った拒絶の言葉。
マズイ、本格的にマズい。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!



