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夫の自覚①

side :継 長年 詩音を苦しめていた自己否定の心の扉が、やっと、やっと開いた。 あまりにうれし過ぎて舞い上がり…苛め過ぎて怒らせてしまった… 学習能力のない俺…最低…何度繰り返せば頭に入るんだろう。 その度に詩音を苦しめ傷付け泣かせている。 お袋や伊織さん達の耳に入れば、きっと、俺は立ち直れないほど叩きのめされる。 下手したら、お袋の怒りの鉄拳が飛んでくるかもしれない。 今でさえ…どうにもならない状況に、この俺が対処できなくてオロオロするばかりなのに。 他のことなら難なくクリアしていくのに、詩音に関することになると、さっぱりだ。 鍵を掛けられるのは初めてじゃないからある意味慣れたが(それでもかなり傷付いて凹む)、あんな大声で叫ばれたのは初めてかもしれない。 それにもかなりダメージを喰らっている。 『継のばかっ! 意地悪! いけず! 変態! スケベオヤジ! 嫌い…大っ嫌い!』 …確かに、確かに…しつこかった。 反省している。 素直になった詩音が愛おしくて、そのかわいい口から卑猥な言葉を言わせたかっただけ。 そうだよ。 俺はただの変態だよ。 無言の上に、怒りと拒絶の匂い。 自分が蒔いた種とはいえ辛い。辛過ぎる。 あぁ、そろそろお昼か…詩音はここに来てくれるだろうか。 携帯を取り出し、メッセージを送る。 『お昼はこっちに来てくれるかな?』 既読後、しばらくして返信があった。 『ごめんなさい。行きません。』 何!? 『行()ません』じゃなくて『行()ません』!? ハッキリと意志を持った拒絶の言葉。 マズイ、本格的にマズい。

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