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夫の自覚②

せっかく開いた詩音の心の扉が、また閉じてしまっては取り返しのつかないことになるっ! もし、今度そんなことがあれば、詩音の心は二度と俺の元に戻ってこないっ!!!!! あの、番拒否症候群の時のような、あんな思いはもう沢山だ!!!!! 詩音、待ってろ!今行くから! 俺は慌てて部屋を飛び出した。 詩音のいる部屋に近付くにつれて、甘い中に哀しみと後悔と、雑多なマイナスの感情が混濁した匂いが漂ってきた。 詩音がいる! ノックもせずにドアを開けると… ぼろぼろ涙を流している詩音が、目に飛び込んできた。 「…継…」 掠れた声で俺の名を呼ぶ詩音。 顔は涙でぐちゃぐちゃだった。 脇目も振らず詩音の側へ行き跪いた。 「…詩音がいないと喉を通らないんだ。 一緒に食べてくれないか? 今朝のことは…本当にごめん。 お前が勇気を出して自己否定の鎖を断ち切ってくれたのに、その気持ちも考えずに調子に乗った俺が悪かった。 許してくれるまで何度でも謝るから…」 さながら、姫にプロポーズする王子のように片膝を立て詩音の両手を捧げ持って、心を込めて謝罪する。 詩音の目からぶわりと涙が溢れてきた。 ゴメンナサイ ゴメンナサイ スキ ダイスキ 詩音から“ゴメンナサイ”と“ダイスキ”が噴き出している。 俺からも…もっと濃い匂いが出ていた。 「社長室へ行こうか?」 詩音の弁当を包み直し、手を引っ張って連れ出した。 お約束事のように膝に乗せ、食べさせ合う。 どちらも完食した後は、何も言わず催促せず、黙って寄り添い抱きしめ合う。 詩音はぴったりと俺の胸に頬を寄せ、時折鼻をすすっていた。 俺は詩音の髪を撫で梳き、そんな詩音を愛おしく見つめていた。 それで十分だった。

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