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夫の自覚③

午前中の不調が嘘のように、仕事がサクサクと(はかど)り、明日の分まで終わってしまった。 退社まで十分時間がある。 詩音の癒し、恐るべし。 あの後、泣き腫らした目で仕事をしてるのだろうか。 中田達に揶揄われていないだろうか。 俺のことを…少しでも思ってくれているだろうか。 はあっ… どうして俺って、配慮が足りないんだろう。 こうなるのがわかっていてやらかしてしまう。 それも一番大切な伴侶に対して。 詩音の心が壊れてしまうのはどんな時か、よくわかっているはずなのに。 バカだ。 バカだ。 俺はバカだ。 詩音のこともよくわかっているはずなのに。 どんなに繊細で傷付きやすくて、我慢をしてしまい、優しすぎるのかを。 俺は本当に詩音のことを理解してやってるのだろうか。 わかっているつもりで全然わかっていない。 愛おしい、愛おしい俺の番。 でも 少し詩音の様子が変わった。 今までと匂いも違う。 どこが?と言われても上手く説明できないのだが。 いい方向に変わった としか言いようがない。 俺も大人にならなきゃ。 詩音を二度と傷付けないように。 あぁ…確かこの間もそう決心して…今日、またやっちまった。 何度同じ目に遭えば気が済むのか。 あぁ、やっぱり俺はバカだ。 絶対的αと呼ばれる俺でも、儘ならぬことがあるなんて。 こと、詩音に関して、俺は冷静でなくなる。 本能が剥き出しになる。 詩音の全てがほしい。 詩音の身体も心も何もかも、喰らい尽くしたいくらいに愛している。 あの笑顔を守るためなら、どんなものでも犠牲にできる。 例え俺の命でさえも。 トントン ノックの音!時計を見ると退社時間だ! ドアに飛びついて開けると あぁ…花のように(ほころ)んだ笑顔の詩音がいた。

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