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夫の自覚④

息を切らして飛び込んできた愛おしい身体を抱き寄せて、その感触と匂いを堪能する。 あぁ、詩音… 早く二人っきりになって、あんなことやこんなことを… 「詩音、帰ろうか?」 「はい!」 車に乗せると同時にキスを浴びせる。 離れるのも辛いが運転して帰らなければ… 「買い物はいいのか?」 「今日は大丈夫です。」 「…そうか…じゃあ家に直行する。」 二人の時間を1分でも1秒でも…早く、早く。 心は()くが、安全運転で。 朝と同じ無言の車内。だが、違うのは空気が愛に満ちていること。 待ちきれなくて詩音の手を取り指を絡め、玄関に入った途端に抱きしめてキス。 俺の腕にすっぽりと(くる)まれる華奢な身体からは俺を求める匂いが立ち込めていた。 詩音が遠慮がちに俺の背中に手を回してくる。 甘い匂いだけでなく、布越しに触れる肌の熱さが詩音の心を雄弁に物語ってくれる。 俺達二人ともが、謝罪と愛の言葉が入り混じった匂いを発している。 ゴメン アイシテル ゴメンナサイ アイシテマス 「…継、俺、ご飯の用意をしたいです。」 「…あぁ、そうだな…わかった。」 いつまでもこんな所で抱き合っていては、何もできない、進めない。 詩音はすぐにお風呂の用意をしてくれ、その心遣いに感謝しながら先に入った。 そうだ、詩音も早く風呂に入れてやらなければ。 急いで出ると詩音をバスルームへ追い立てた。 「詩音、洗い物は俺がするから、早く入っておいで。」 「え…でも。」 「いいから。ゆっくり入っておいで。 その方が落ち着いて食べれる。」

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