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甘える獣①

翌日…痛む腰を摩りながら、そっと起き出して朝食と弁当の準備を始めた。 「詩音、痛いだろう? 今日は俺がやるから横になってろ。」 少し髪の乱れた継が、いつの間にかキッチンにやってきて、俺を背後から抱きとめる。 「おはようございます、継。大丈夫ですよ。 すぐ終わりますから。 継こそゆっくりしてて下さい。 できたら起こしに行きます。」 「そうか?無理はしないように。 じゃあ、キスして起こしてくれよ。」 こめかみに優しくキスをして、『アイシテル』の匂いを残したまま、継がベッドルームに戻って行った。 すんすんとその残り香を吸い込むと、胸がきゅうっと切なく疼いて、少し勃ちそうになった。 朝からこんなっ! 気を紛らわそうと、スピードアップして調理すると、継を起こす時間までまだ15分もあった。 ついでに晩ご飯の下ごしらえもしてから、継を起こしに行く。 ドキドキしながらドアを開け、そっと枕元に行くと、継は寝息を立てて眠っていた。 彫刻のように整った顔。 すっとせり出した鼻筋は高く、切れ長の目に添う睫毛が震えている。 この唇に愛をささやかれ、身体中愛されたんだ… じっと見ていると 「キスはどうした、詩音?」 飛び上がるほどビックリした! 起きてたの? 「…継、起きてるんですか…」 「ほら、“おはようのキス”」 目を瞑ったままで強請る獣に、触れるくらいのキスをする。 「…はい、起きて下さいね。」 「…もっと、ちゃんとしたやつ。」 「“ちゃんとしたやつ”って…」 ぼふっと真っ赤になる俺に 「してくれないと起きない。会社も休むかもな。」 意地悪だ! わかってて言ってる!

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