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獣の躾⑦

俺の剣幕に継がビビって一言も言い返せない。 無表情で、ひたすら俺が怒鳴り散らすのを聞いている。 「たかが夫夫喧嘩で何を甘ったれたことを言ってるんですかっ! 休む?お前も休みだ? 休んでどうするつもりなんです? 何も解決しないじゃないですか。 馬鹿馬鹿しい… 会社を…仕事を何だと思ってるんですか! いい加減にして下さいっ! あなた、曲がりなりにもこの会社のトップなんですよ? トップがそんな考えなら会社は見る間に倒産の危機ですよ。 『二代目になって潰れちゃった』って、世間様のいい笑いものです! 一体何人の社員の生活を預かってると思ってるんですか? その人達にどれだけの人数の家族が繋がってるか、おわかりですか? 社内の人達だけじゃありませんよ。 取引先を含めたら数えられないくらい… しっかりして下さいよっ! 『ヨメの尻ばかり追いかけて』なんて、俺のせいにされるのもいい迷惑です。 …今すぐ篠山さんと中田部長に連絡して、前言撤回して下さい。 休暇は取り消し。 二人とも通常通り出勤するからと。 早くっ!!!」 継が、ばね仕掛けのオモチャのように飛び上がり、あたふたと携帯を片手に電話をかけ始めた。 俺は興奮冷めやらず、はぁはぁと大きな息をつきながら、玄関へ向かう。 ネクタイも締めずに、バタバタと継が追いかけてきた。 顔面蒼白だ。 αだけが強くて偉いだなんて、思わないで。 Ωだって…Ωだって、守るべきもののためには強くなれるんだからっ。 無言で車のキーを差し出すと、継は急いで受け取って、俺のために玄関のドアを開けた。

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