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獣の躾 side伊織③

渋る俊哉さんを見送り、片付けに取り掛かる。 『お前は寂しくはないのか』と問われても、 『別に』と答えるだろう。 たった二泊だ。“たった二泊”。 それで寂しいとか離れたくないとか言われても困る。 いつもぴったりおんぶお化けみたいに纏わり付かれているんだ、たまにはのんびりと好きなことをして過ごしたい。 元々…俺は何かにつけて淡白なのかもしれない。 スーパーΩとしての生活がそうさせたのかも。 未来に夢見ることもなかったし、全てにおいて冷めていた。 感情の起伏もそれほどではないし、俊哉さんが暴れるほど別れが辛い訳でもない。 『薄情だな』って自分でも思う。 嫌いとか、倦怠期とか、そんなものとも違う。 愛情が薄いのとも違う。 愛情の多少ではなく執着の度合いが違うんだ…と思う。 結婚して二十年以上経つと、空気のような間柄になるんだろうか。 俊哉さんのことは…もちろん愛してる。 これは不動だ。 絶対に。 高校生の時に俊哉さんと出会って番になって、子供ができて、その子達が独り立ちして…今はまた新婚の時のような二人暮らし。 あの人は相変わらず俺にご執心で、毎日『愛してる』とささやき続ける。 俺を抱きしめ、愛おしげに髪を撫で、優しくキスをする。 俺が冷たくあしらっても無視しても、尻尾を振って離れない愛犬のように。 俊哉さんなら蹴り倒しても、きゅんきゅん甘えた声を出して擦り付いてくるはずだ。 馬鹿な犬ほどかわいいって言うじゃないか。 くくくっ。 何はさておき…何だかんだ言っても、俺もあの(ひと)にベタ惚れなんだよな… さて、俺も準備をしなければ。

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