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躾けられる獣②
篠山さんの気の毒そうな視線が、かえって痛い。
彼は泣き出しそうな俺に、そっとコーヒーを出すと説教を始めた。
「…それは社長がいけませんなぁ…
もっと詩音様の体調とかお気持ちを考えて差し上げないと…
社長のお気持ちもわかりますよ、私だって男ですから。
でも…何度も申し上げますが、詩音様は人よりも倍、いや数倍繊細な方なんですよ。
よくもあの細いお身体で社長を受け止め…いや、コホン。
ましてやぐっすり眠っている相手に…それはマズイです。NGです。
更にいけなかったのは、会社をズル休みしようとしたことですな。
それが火に油になったんですよ。
男としての沽券にかかわります。
『大切な会社を仕事を蔑ろにするなんてけしからん』
とお思いになられたのでしょう。
度々プライベートで休むのも快く思ってらっしゃらなかったし。
…とにかく社長、詩音様のお怒りが鎮まるまで、仕事に精を出して大人しくしておくことですね。」
「…こんな状態で仕事なんてできないよ…」
「社長らしくありませんな。
もっと、ほら、シャキッとなさって!
今の姿を詩音様がご覧になったら、またお怒りになりますよ。
ふふっ…何だか先代のことを思い出してしまいました。」
「先代?親父も?」
「はい。先代も奥様にメロメロでしたから。
あ…今でも変わりませんけどね。
ズル休みしようとしては、奥様に叱咤激励されて、不貞腐れて仕事をなさっておいででしたよ。
この会社は社長の奥様でもっているようなものですね。」
「…何だ…遺伝じゃないか。」
「さあ、バリバリ片付けていって下さいませね。
詩音様の帰りはお気になさらず。
残業も今日からしっかりとどうぞ。」
泣きそうになりながら、嫌々書類に手を伸ばした。
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