383 / 829
躾けられる獣③
お昼の誘いのラ◯ンを打っても
『行きません。』
のたったひと言だけ。
完全に怒っている。
前置きの『ごめんなさい』の言葉もない…
ダメだ…詩音が足りないよ…
でも、ここで押しかけても、今日の詩音の怒り具合が今までと違うから、この間みたいに上手くはいかないのは目に見えてる。
篠山さんの言う通りに我慢するしかないのか。
思いっ切り落ち込んで、一人寂しくお弁当の蓋を開けた。
いつもと同じ、手の込んだおかず。
俺の健康を考えて薄味で野菜がたっぷり入っている。
煮物を箸でつまんで口の中へ。
美味い。
美味いけど…足りない。
詩音が足りない。
自分が仕出かしたこととはいえ、辛いなぁ。
もそもそと食べていると、ノックの音が!
詩音?詩音なのか?
「どうぞ!」
入ってきたのは、中田部長だった…
「…なーんだ、中田かぁ…」
「俺で悪かったな。で?今日は一人か?」
ぶすっと不貞腐れて黙っていると
「詩音君も一人で食べてたな。
何だよ、また夫夫喧嘩か?」
「………………………」
「ははっ。やっぱりそうか。
で?お前、何やらかしたんだ?
あの様子じゃ、相当なことやったんだろ。
あれ、普通の怒り方じゃないぞ?」
「そんなに態度に出てるのか?」
「あぁ。他の奴らは気付いてないだろうけどな。
俺は柚月で慣れてるから。」
「何だよ!お前だってヨメさん怒らせてるじゃないかっ!」
「俺達のは愛情の確認のための喧嘩だからいいんだ!
継は…前科があるだろ?“番拒否症候群”」
それを言われたら返す言葉がない。
がっくりと項垂れる俺に、中田は
「詩音君、仕事はきっちりやってるから大丈夫だよ。
お前…いい加減に学習して大人になれよな!」
ひらひらと手を振って出て行った。
アイツ…今度何かあったらとっちめてやる!
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!