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伊織さんの夫夫生活①
side:詩音
「お先に失礼します!」
今日は、中田課長の揶揄う声を無視して駐車場へと急ぐ。
伊織さんを待たせてしまっているはず。
出口に篠山さんがいた!
「篠山さんっ!」
「詩音様、お帰りは伊織様が送って下さるそうです。
どうぞごゆっくり。」
「嫌なこと頼んでごめんなさい。」
「いいえ。偶には息抜きも必要ですよ。」
「ありがとうございます。
…あの…継は、どうしてますか?」
「番拒否症候群以来の落ち込みようですよ。
まるでボロ雑巾みたいです。
あなたにこれ以上嫌われまいと、必死で仕事をこなしてらっしゃいましたけどね…
若いうちは、とことん打つかればいいんです。
喧嘩して、傷付いて、それを一緒に修復していく…そうやって本物の夫夫になっていくんですから。
従順なだけでは、あの方のためにもなりませんからね。
詩音様はそれができる唯一のお方ですから。
さあ、楽しんで行ってらっしゃい!
何かあればこの篠山にご連絡を。
すぐに駆けつけますから。」
「…篠山さん…ありがとうございます…」
にっこり笑う実直な秘書殿にお辞儀をして別れると、伊織さんに電話をしようと携帯を取り出した。
と、そこへ、黒のポルシェが滑るように横付けされた。
え?と思う間もなく助手席の窓が開き
「詩音君、お待たせ!乗ってー!」
「伊織さん!?…カッコいい…失礼しますっ。」
ドアを開け乗り込み、高級感たっぷりのレザーのシートにふわりと包まれる。
きょろきょろしながら、はぁっと溢れるため息に、伊織さんはくすくす笑いながら
「びっくりした?
ふふっ。これご褒美でね…おねだりしちゃったんだ。」
「ご褒美?…あっ、あの事件の?」
「うん。上層部もね…チョロいもんだよ。
色々弱みも握ってるからね。
総監のポケットマネーで、バーンと。」
伊織さん、結構怖い人…
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