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伊織さんの夫夫生活⑧
伊織さんは俺の方をチラチラ見ながら、その視線は『どうする?』って尋ねてる。
俺は帰りたくなかったが、継の声を聞いたら居ても立っても居られなくなって、お尻が浮き出した。
「詩音君に聞いてみるから、一旦切るね。」
ピッ
「さぁ、詩音君、どうする?…このまま帰ってもらう?
ダンナさん、かなり へばってるよ。
あれ、相当なダメージきてる…
鞭ばかりでは、猛獣は言うこと聞かなくなっちゃうよ。
飴ちゃんあげないと。ね?」
にっこりと伊織さんは微笑んだ。
「…わかってます。わかってますけど…」
「うんうん。詩音君は賢くて優しい子だから、そこら辺はわかるよね。
あのね…『折れる』『引く』ってのも、ヨメの大切な役割なんだよ。
ダンナのプライドを叩き壊すだけじゃない、守ってあげるのも俺達の役目。
もう、怒りは収まってるだろう?
あの継君がここまで来てるんだ。
その気持ち、汲んであげてよ。」
伊織さんが諭すように話しかけてくる。
「ここへは、またいつでも遊びに来たらいい。
手ぶらでね。
いつ誰が泊まってもいいように、着替えもちゃんとあるから。
ほら、支度しなさい。
傷付いた猛獣が待ってるよ。」
「俺、もっと伊織さんと話したかった…」
「だから、いつでもおいで!待ってるから。」
渋々立ち上がり着替えている間に、チャイムが鳴り、どうやら継が部屋までやって来たようだった。
伊織さん、お母さんみたいだ。
もっといろんなこと聞いてほしかったのに。
ちょっと不貞腐れた顔で、継の待つリビングへ向かった。
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