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やっぱり、大好き①

side:詩音 無言で手を繋がれたまま、降下するエレベーターの中。 抵抗する気も更々なく、継の温かくて大きな手に ぎゅうっと握られている。 謝罪と、戸惑いと、愛おしさと、ほんの少しの怒りの匂いが混濁する密室で、お互いの思いを感じ取っていた。 車に乗せられ、シートベルトも付けられて、車は滑るように走り、渋滞もなくてスムーズに自宅に着いてしまった。 助手席のドアを開けられる。 哀しげな瞳に胸を抉られるような気がして、黙ってシートベルトを外し、差し出された手を握った。 ひと言でも交わしたら、そのままその場で交わりそうで、(すんで)の所で踏み止まっている。 それは同じ気持ちだと、継の匂いが伝えてくる。 繋がれた手からは『アイシテル』と『ゴメンナサイ』が混じり合い、じっとりと汗ばんでいた。 いつもよりワザとのように遅く感じるエレベーターに少し焦れながら、上昇する階数表示を眺めていた。 着いた途端、ぐいっと手を引っ張られ、つんのめりながらドアの前まで来ると、継は鍵を壊さんばかりに開けて、俺を中へ引き摺り込んだ。 ドアが閉まるか閉まらないかの瞬間、壁に押し付けられて唇を塞がれた。 んむっ 無理矢理に唇をこじ開けられて、熱い舌が雪崩れ込んできた。 上顎も、頬の内側も、歯列も、舌の裏側も…全て嬲るように舐め尽くされる。 苦しい…息ができない… どんどんと継の胸を叩くと、やっと少し離れてくれた。 お互いの唇を繋ぐ銀糸が、仄暗い灯りに照らされて微かに光を放つ。 はあはあと乱れた息も整わぬうちに、また吸い付かれた。 「んんっ、んむっ、んっ」 貪りつかれ蹂躙される口内に、それだけで感じてしまい、膝が かくりと抜け崩れていくのをすかさず抱きとめられた。

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