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やっぱり、大好き②

耳元でささやかれる。 「詩音、大丈夫か?」 大丈夫な訳ないでしょ? 非難を込めた目で継を見ると、くしゅんと項垂れた。 足に力を入れ踏ん張って立ち上がると、靴を脱いで先に部屋に入った。 継は後からトボトボとついてくる。 ざっと見渡すと、朝出て行ったままの状態だった。 晩ご飯は食べたのだろうか。 キッチンが汚れていないということは、きっと外食してるはず。 そう思い振り向くと、情けなそうな顔をした継が 「詩音の顔見たら安心してお腹が空いてきたよ。」 「えっ…外食で済ませたんじゃ…」 「…詩音がいないと食べる気がしなくて… あ、自分で何か適当に食べるから気にしないで。 一緒に帰ってきてくれてありがとう。 いや その前にちゃんと謝らなきゃ。 詩音、ゴメンナサイ。」 子供みたいにぺこりと頭を下げた継は、じっとそのまま動かない。 俺は継の元にすっ飛んで行って、肩を揺さぶった。 「さっきも謝ってもらったから、もう止めて。 すぐに何か作るから待ってて。」 「詩音…」 頭を上げた継の瞳が少し潤んでる。 伊織さんの言葉が蘇った。 《あのね…『折れる』『引く』ってのも、ヨメの大切な役割なんだよ。 ダンナのプライドを叩き壊すだけじゃない、守ってあげるのも俺達の役目。》 冷蔵庫の食材を探しながら考える。 ここで俺が折れないと… 鞭だけじゃダメ。時々飴ちゃん。 継も大分反省してるようだし…釘を刺して許してあげよう。 手早く仕上げて、まだおどおどしている継の前に並べた。 「あり合わせだけどゴメンナサイ。 どうぞ。」 「いいの?ありがとう。いただきます!」 パクつく継を見ていると、俺はやっぱりこの(ひと)が好きなんだと思い知らされる。

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