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後悔①
side:継
詩音の部屋を出て寝室に戻った。
深呼吸すれば、詩音の甘い残り香が鼻先に纏わり付く。
途端に、ずくんと反応する下半身。
己の節操のなさに、思わず笑いが出る。
ダメだ、こりゃ。
少しの匂いでこれかよ。
どれだけ我慢が効かないんだ。
まるで性欲の塊のオバケじゃないか。
ヤることしか考えてないのかよ。
これじゃあ、詩音に愛想を尽かされても仕方がないか。
仕方ないだろ?
詩音を好きで好きで好きで好きで好きで…
堪らないんだから。
あんなかわいい生き物はこの世にいない。
いつでも俺の側に置いて、くっ付いて、キスして、突っ込んで…いやいや、抱きしめて。
詩音が泣いても笑っても、何をやっても愛おしくて身悶えする。
まだ自分がΩだということを否定しているのか。
どれだけ詩音の受けた傷は根深いのか。
喧嘩する度に歩み寄って、夫夫としての階段を一段ずつ二人で上がってきたと思っていた。
けれど、俺の無意識に飛び出す言葉や態度に、詩音は傷付いている。
『言われて嫌なこともあるんです。
されて嫌なことだってあるんです。
でも、それを受け入れる器が今の俺にはない…
継の言葉一つに翻弄される。
継はαで、俺はΩで。
所詮Ωは、性欲処理にすぎないって…
だから、また前みたいに自分を否定して閉じこもってしまう…
愛してるから許せないことだってあるんです。』
絞り出すように訴える詩音の言葉。
ガツンと頭を殴られたように感じた。
心臓に突き刺さった悲痛な想い。
俺は詩音のことを全く理解していなかったのか…
俺の腕の中で乱れていた詩音はホンモノだったのか?
まさかずっと俺の『性欲処理』だと思っていたのではないだろうな…
違う、それは違うよ、詩音。
俺はお前のことを愛していて、お前の全てがほしくて、その結果の行為だ。
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