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後悔⑤
「確かにそうなんだ。
詩音は、俺達家族みんなから愛されて育った。
それは今も昔も変わらない。
でも、たった一度…一度だけ、そのバースを否定されたことがあるんだよ。」
俺はお義兄さんを見つめ、黙って聞いていた。
「詩音が中学二年の時だった。
親戚で、Ωを悉く否定し、排除しようとする人がいたんだ。
その時を限りに、一切の交際を絶ったから、今は何をしているかどこにいるのかも知らない。
その人が、うちの両親に向かって、親戚一同勢揃いした曽祖父の法事で、母と詩音を詰ったんだ。
『うちの家系でΩを産むなんて。
Ωは出て行け!』
みたいなことを言った。
その場は他の人が諌 めてくれて、謝罪されたんだが、別室で、すぐに反論しなかった父に対して母が激昂して
『Ωなんて産まなければよかった!』
って口走ったんだ。
両親とも、誰も聞いてない二人だけの会話だと思っていたんだろうが、たまたま俺と詩音がその部屋に入ろうとしたところだったんだ。
それを聞いた詩音は、真っ青になって震え出して…
俺は慌てて震える詩音を連れて、家に連れて帰ったんだ。
着いた途端、詩音は崩れるように倒れてしまって、二、三日高熱を出して寝込んだんだ。
それからだよ。
詩音が必死で勉強して、身体も鍛えて、そこら辺のαなんか敵わないくらいになったのは。
両親は、俺達が聞いてたことをたぶん知らない。
それ以降、それに関して詩音もおくびにも出さないから、俺もすっかり忘れてたんだ。
もし、自己否定が消えないなら、その時のことが原因かも…」
俺は思わず顔を覆って俯いた。
何てことだ!
思わず口から出た言葉とはいえ、唯一信用して愛されてると思ってた家族から、それも母親から、産んだこと自体を否定されたなんて!
「…詩音…」
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