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後悔⑧
俺はお礼もそこそこにお義兄さんの店を飛び出した。
詩音に『少し遅れるけど待ってて』とのラ◯ンも忘れずに打った。
篠山さんにも『詩音を待たせてくれ。定時少し過ぎるが申し訳ない』と謝罪の電話をした。
車を飛ばして会社に着いたのが定時を十五分過ぎたとこだった。
息急き切って社長室に飛び込むと、不安な顔と匂いを漂わせた愛おしい伴侶が、所在無さげに座っていた。
「詩音、待たせてすまない。」
「…大丈夫です。」
俺の顔を見た途端にふわりと微笑む詩音…
「篠山さん、ありがとうございました。
…何とか、解決するかもしれない…明日、聞いて下さいね。」
有能な秘書殿に耳打ちした。
彼はにこやかに頷いて
「承知致しました。お疲れ様でした。」
と俺達を見送ってくれた。
篠山さんには、仕事上だけではなく、プライベートなことまで相談している。
今までも何度となく的確なアドバイスとフォローに助けられてきた。
余計な詮索をせず、俺達を支えてくれる大切な秘書殿に感謝しつつ、詩音に告げた。
「これから詩音の家に行くから。」
「え?何かありましたか?」
「お前の両親が、どうしても話したいことがあるそうだ。
晩飯もあちらで準備してくれるそうだよ。」
「話したいことって…何だろう。
そんな、急に改まって…」
「聞けばすぐにわかるだろう。
…少し飛ばすぞ。」
アクセルを踏み込んで詩音の家へと向かった。
到着してすぐ、少し赤い目をしたお義母さんに応接間に通された。
詩音はいつもと違う空気と匂いに気付いたのか、俺のスーツの裾をキュッと握ってきた。
俺がその手を取って繋いでやると、安心したように大きく息を吐いた。
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