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解放 2nd⑨
俺は継の胸に顔を埋めたまま、小さな声で、でも継にちゃんと聞こえるように言った。
「…一回だけ。
一回だけにしてくれるなら…俺を愛して下さい。
…ホントに、一回だけですよ?」
やけに『一回』を強調した感はあるが、継のフェロモンに喜びが溢れたのがわかった。
「詩音…お前って…あぁ、もう…詩音!」
詩音、詩音、と名前を呼ばれ、呼ばれる度に二人のフェロモンが絡まっていく。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ と軽やかなリップ音が数え切れない程顔中に落ちてくる。
そのうち、何か違和感を感じた。
え…震えてる?
継がふるふると震えている。
継、どうしたの?
そっと頬に手を当てると、継はふにゃりと端正な顔を崩した。
「…我慢するよ。
その代わり、今夜は俺をたっぷりと甘やかしてくれ。」
俺は、大きな身体を震わせる継が愛おしくて愛おしくて、また泣きそうになった。
そしてぎゅっと抱きしめると
「わかりました。
お望み通り、たっぷりと甘やかせてあげます。
でも、俺を甘やかすこともお忘れなく。
…お手柔らかに。」
「詩音…」
『愛してる』が、飛び出して引き千切れてどこかへ行ってしまいそうだ。
こんな気持ち、どうしたらいいんだろう。
気が狂ったみたいに継のことしか考えられない。
継も同じなんだと思う。
だって、俺と同じ匂いがする。
継だって気が付いてるはずだ。
すんすんと俺の匂いを嗅ぎまわり、物凄く満足そうな笑顔になってるから。
抱きしめ合ったまま、お互いの匂いを感じて、肌の温もりを確かめ合い、軽めのキスを沢山しているうちに、アラームが鳴った。
名残惜しく肌の密着を解き、唇に甘いキスを一つ残して、俺は寝室を後にした。
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