449 / 829

ついに…結婚式!⑦

継の前で止まると、父はそっと俺の手を継に引き渡し 「私の大切な息子です。 どうか末永く愛してやって下さい。 よろしくお願い致します。」 と言った。 その声は少し涙声に聞こえた。 「お父さん、俺は絶対に詩音を離しません。 生涯を掛けて愛します。」 継の言葉に、もう、涙が決壊寸前だった。 泣いちゃダメだ! 溢れそうな涙を必死で堪えて、継に手を引かれ祭壇へ登った。 力強い手から、温もりと安心感が伝わり、俺の大好きな匂いが継から途切れることなく流れてくる。 俺達は手を繋いで牧師さんの前に並んだ。 粛々と流れる賛美歌。 牧師さんの朗々とした声に応え、俺達二人の永遠の愛を誓う。 お互いの指に、再び収まる結婚指輪。 しっかりと馴染んだそれは、美しい輝きを放っている。 継からは濃厚な甘くて穏やかな匂いがする。 もちろん、俺からも。 みんなからも、祝福と喜びに溢れた匂いがする。 …一人だけ違う…悲しみと憤りの感情…夏樹? ごめん。俺はその想いは受け止めないし、受け入れない。 君には、君だけの運命の相手が現れるから。 俺には、継だけなんだよ。 継しか見えない。 継も気が付いているのだろう。 繋ぐ手に力がこもった気がした。 「誓いのキスを」 継が俺のヴェールを上に上げ、やっと真正面から顔が見えた。 「綺麗だよ、詩音。この愛を永遠に…」 近付いてくる唇に、そっと目を閉じた。 唇が重なり、鐘の音が響き渡る。 ウワァーッという歓声と指笛の中、しばらくしてから、そっと唇が離された。 ステンドグラスから、柔らかな光が差し込み、パイプオルガンの厳かな音楽が流れる中、みんなに祝福され、腕を組み退場する。 その頃にはもう、夏樹の負の匂いはなくなっていた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!