477 / 829
謎の行動⑨
詩音の顔が徐々に明るくなっていく。
纏う匂いも喜びに満ちてきた。
「ほら、詩音。ちゃんと見せて!」
詩音は弾けそうな笑顔になると、俺の手を引っ張って寝室へ連れて行った。
片方の手には、俺の下着をしっかりと握りしめて…
改めて見ると、凄い…
こんもりと服やタオルや小物で作られたそれは、まさに『巣』。
先にベッドによいしょと登った詩音は、ワクワクした目で俺を見つめる。
俺もその後を追ってスペースの空いた真ん中へ座った。
「…凄いな…」
きちっと畳まれた衣類は、詩音の性格を現しているのだろう。
色とりどりのそれらは、きっと何度も何度もやり直したらしい。
「詩音、よく頑張ったな。とってもうれしいよ。」
そう言って頭を撫でてやると、ふふっ とうれしそうに微笑んだ。
発情期前のΩが作ると言ってたな。
詩音は発情期ではないのに。さっき中田が言ってた
『詩音君、余程継のことを愛してるんだなぁ。』
と言うことは、この巣は、Ωの愛のバロメーターなのか!?
発情期でもない詩音がコレを作ると言うことは、本当に俺のことを愛してくれている証拠!?
その考えに行き着いたら、詩音がとてつもなく愛おしくて愛おしくて堪らなくなり、そっと抱き寄せた。
「詩音….ありがとう…素敵な、素敵な巣をありがとうな。
うれしい…本当にうれしい。ありがとう。」
詩音は穏やかな笑みを浮かべ、俺に身体を預けている。
溢れかえる甘い匂い。
突然、アラームが鳴った。
「うわっ、時間だ!ヤバい!
詩音、急いで昼飯を食べるぞ!」
もう一度『ありがとう』とキスをすると、慌ててキッチンへ駆け込んだ。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!