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惚気③

やっと仕事を終え、すぐに食べれるように出来合いのおかずを買って家路を急ぐ。 巣作りの間はそれに集中するため、日常生活がままならなくなってしまうらしい。 詩音は発情期ではないけれど、恐らく巣作りで忙しいだろうから、念のために。 インターホンを鳴らす。 …無言… いつもなら『今開けます!』とエントランスの二重扉を解錠してくれるのに。 どうした? 何かあったのか? 自分で開けてエレベーターに駆け込み、ボタンを連打する。 やっと動き出したエレベーターにイライラしながら、上昇する階数表示を睨みつける。 ドアが開くのを待ち構え、猛ダッシュで部屋まで走り、焦る心を押さえて解錠した。 「詩音っ!詩音?どこだ?」 叫びながら廊下を突っ切り、リビングとキッチンを見て、姿がないのを確認すると、トイレとバスルームを覗き込む。 いない… 巣がある寝室か? 「詩音っ!?し…」 名前を呼びながらドアを開けると、そこには… ぼんやりとオレンジ色の柔らかな照明の中、ベッドの真ん中に、詩音が…いた。 ベッドの周囲は相変わらず俺の物で埋め尽くされ(昼間と位置や物が違う)、両手で大事そうに胸にしっかりと抱いているのは、俺の…脱ぎ捨てたパンツだ… そうだ、昼間も握りしめていたな。 胎児のように丸くなって、ぐっすりと眠る詩音。 その姿は愛おしくてかわいくて…見ていると感極まって泣きそうになった。 そっと抱き込んで背中を撫でてやる。 かわいい、かわいい詩音。 俺の帰るのが待ちきれなくて、眠ってしまったのか。

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