480 / 829
惚気③
やっと仕事を終え、すぐに食べれるように出来合いのおかずを買って家路を急ぐ。
巣作りの間はそれに集中するため、日常生活がままならなくなってしまうらしい。
詩音は発情期ではないけれど、恐らく巣作りで忙しいだろうから、念のために。
インターホンを鳴らす。
…無言…
いつもなら『今開けます!』とエントランスの二重扉を解錠してくれるのに。
どうした?
何かあったのか?
自分で開けてエレベーターに駆け込み、ボタンを連打する。
やっと動き出したエレベーターにイライラしながら、上昇する階数表示を睨みつける。
ドアが開くのを待ち構え、猛ダッシュで部屋まで走り、焦る心を押さえて解錠した。
「詩音っ!詩音?どこだ?」
叫びながら廊下を突っ切り、リビングとキッチンを見て、姿がないのを確認すると、トイレとバスルームを覗き込む。
いない…
あの巣がある寝室か?
「詩音っ!?し…」
名前を呼びながらドアを開けると、そこには…
ぼんやりとオレンジ色の柔らかな照明の中、ベッドの真ん中に、詩音が…いた。
ベッドの周囲は相変わらず俺の物で埋め尽くされ(昼間と位置や物が違う)、両手で大事そうに胸にしっかりと抱いているのは、俺の…脱ぎ捨てたパンツだ…
そうだ、昼間も握りしめていたな。
胎児のように丸くなって、ぐっすりと眠る詩音。
その姿は愛おしくてかわいくて…見ていると感極まって泣きそうになった。
そっと抱き込んで背中を撫でてやる。
かわいい、かわいい詩音。
俺の帰るのが待ちきれなくて、眠ってしまったのか。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!