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惚気⑦
いつもより少し早く目が覚めた俺は、隣にいるはずの愛おしい温もりを手探りで探した。
???
そこには冷たいシーツの感触があるばかり。
それに、あれだけ山積みになっていた俺の洋服や靴、タオルなんかも綺麗に無くなっていた。
普段のベッドに戻っている……“巣”がない!
「詩音?」
寝室のドアを開けると、キッチンからいい匂いと、かちゃかちゃと食器が触れ合う音がする。
「継?おはようございます。
今朝はお早いですね。眠れませんでしたか?」
…いつもの詩音に戻っていた。
「…詩音…あの“巣”は?
片付けちゃったのか?」
「ごめんなさい。俺、何であんなことしたんだろう…洗濯、全部やり直しました!
スーツも、シワ伸ばしのアイロンを掛けたので、大丈夫だとは思うのですが…
気になる物は出して下さいね。クリーニングに出しますから。
後でシーツも替えときますね。
少し早いけど、朝ご飯にしましょうか?」
覚えてないのか…何だかがっかりした。
あんなかわいい舌っ足らずの詩音には、もうお目にかかれないのか…
「継?」
心配そうな目が俺を見つめている。
「いや、大丈夫だ。ご飯、いただこうか。」
そうして、早めの食事を済ませ、ゆっくりと出勤の支度をする。
詩音が側に来て、ネクタイを締め直してくれた。
ありがとう、とキスすると擽ったそうに逃げてしまった。
「詩音、支度できたらちょっとおいで。」
「何でしょうか?」
「目覚めてお前がいなくて寂しかったんだ。
詩音を補充させてくれ。」
くすくす笑いながら俺の側にくると「支度はまだですけど」と言いながら、俺の胸にそっと寄り添った。
甘く優しい穏やかな匂いがする。
たった数日のΩの巣作り。
それに翻弄された俺は、それでも中田にもう一度自慢してやろうと、詩音を思う存分抱きしめてにやけていた。
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