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準備品⑧
読み終わった俺の目にも涙が溢れて、霞む視界の向こうに、お義母さんが右京さんを抱きしめているのが見えた。
嗚咽が次第に大きくなり、右京さんは幼子のようにわんわん泣いていた。
「ふふっ。右京君、良かったね。
お母さん、もう一人増えちゃったね。
詩音君…本当に…ありがとう…」
お義母さんの目にも煌めくものが。
お義父さんも、そっと目を拭っていた。
そこへお義兄さんと継がやって来た。
「えっ!?右京?どうしたの?
えっ、親父っ!?お袋?…詩音君も?
何があったの?」
お義兄さんだけでなく、継まで不安そうな顔になってる。
俺はお義兄さんに手紙を渡した。
首を傾げ俺を見た後、黙って読み始めた。
継は俺に『何があったの?』と目で問うが、俺は首を横に振りそれには答えず、ただ継を見ていた。
やがて…目頭を押さえ、横にいる継に手紙を渡したお義兄さんは、俺の方を向いてお辞儀をした。
そのまま、長い時間頭を下げ続け、右京さんの元に近付くと跪き
「右京。」
と、たったひと言。
それはそれは優しい声で名前を呼んだ。
その声に、ゆっくりと身体を起こし、お義母さんから離れた右京さんは、お義兄さんに縋り付き、また泣き始めた。
俺の横にはいつの間にか継が寄り添い肩を抱いてくれていて
「詩音、ありがとう。」
と言ってくれた。
お義父さんはお義母さんを抱き寄せ、右京さんを見守っていた。
父さん、母さん…ありがとう。
右京さんを息子に迎えてくれてありがとう。
俺は継の腰に腕を回し、ぎゅっと抱きついた。
血の繋がった家族がいなかった右京さんに、また家族が増えた…
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