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準備品おまけ①
俺は助手席の背もたれに身体を預け、腫れぼったい目をぱちぱちと瞬かせて、流れゆくイルミネーションを見つめていた。
「…詩音?」
「…はい。」
「今日は…本当にありがとう。
家に着いたら、お義母さんに電話するよ。
兄貴達も電話するって言ってた。」
「そんな!俺は何もしてないから…
母が勝手なことをして申し訳ありませんっ!」
「詩音…勝手なことじゃないんだよ。
ゆっくりと家で話そう。」
継は俺の頭をポンポンと撫でると、口元に笑みを浮かべて車を走らせた。
間もなくマンションの駐車場に滑り込んだ車は、軽やかなエンジン音を停止させた。
継は、助手席のドアを開け、手を差し出してVIP扱いで俺を降ろすと、手を繋いでエレベーターに向かった。
「ほら、足元…気を付けて…」
「…大丈夫です。」
繋いだ手から、継の温もりが伝わってきて心地いい。
家に入ると、先にお風呂に入るように言われた。
躊躇していると「一緒に入るか?」と問われ、慌てて支度をして先に入る。
入れ替わりに継が入っている間に、お弁当箱を洗い、明日の準備を済ませておく。
継は何か飲むだろうか。
『勝手なことじゃない』ってどういうことなんだろう。
お義母さんや右京さんは、気を悪くしなかったんだろうか。
あれこれ考えていると、継がやってきて甘えながら言う。
「後でビールでも飲もうかな。」
「簡単につまみでも作りましょうか?」
「いや、持って帰ったおかずの残りでいいよ。
チーズもあっただろう?」
お皿に盛って、リビングへ持っていく。
継はどこかへ電話し始めた。
「夜分に申し訳ありません。継です。
はい、あ…いいえ!こちらこそ。
はい、はい、…そうですか。
ええ。本当にありがとうございました。
もう、みんな大泣きで。
ははっ、はい…代わりますね!」
笑顔の継が携帯を差し出してきた。
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