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不満 side:継②

俺はその笑顔を見ながら 「詩音…いい加減に落ち着いて座ったらどうだ? 埃くらいでは俺達は死なないよ?」 「だって…目に付いたら気になっちゃって… 俺が動き回っていると、落ち着かないですよね?ごめんなさい。」 しゅんと項垂れる詩音。 「そうじゃなくて」と前置きして 「…久し振りに二人っきりなんだ。 偶には、その、二人で…甘い時間を過ごしても…いいんじゃないのか? 随分とご無沙汰なんだが…」 目をパチパチと瞬きを繰り返し、しばらく何のことかと考えていた風の詩音は、やがて俺が言わんとしていることを理解したのか、ぼふっと音が出るくらいに真っ赤になった。 「あっ、あの、その…継…俺…その…」 俯いて言葉をなくす詩音を見て、俺もがっくりと項垂れた。 あーーぁ、やっぱりな…詩音にはその気がないのか… せっかく、兄貴に妊娠中の繋がり方を聞いて、揶揄われながらも恥を忍んで、香川先生にしっかりレクチャーしてもらい、ネットでも思う存分調べ尽くして、準備万端だったというのに。 「あ…ごめん、詩音。今の…忘れて。 俺、台所の洗剤買い忘れてたから、ちょっと出掛けてくる。 すぐ帰るから!」 「…継…あの…」 何か言いかけた詩音を残し、車の鍵を掴むと急いで玄関を出た。 下降するエレベーターの中で、思わず座り込んだ。 自己嫌悪。 あー、言った自分が恥ずかしい。 兄貴…教えてもらった通りにはいかないよ。 俺のこの、有り余る性欲はどうしたらいいんだ? 一人で処理か…あと数カ月…頑張れ、俺!

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