500 / 829

不満 side:継③

あれこれ考えながらもぼんやりと店内を回って、足りなくなっていた台所洗剤と、トイレットペーパー、それにゴミ袋を買った。 あぁ…こんな情けない気持ちで帰らなきゃならないのか… 匂いで詩音にはすぐバレるかもしれないが… うろうろしてても仕方がない、帰るとするか。 鬱々とした思いを抱えて、玄関のドアを開けた。 「ただいまー。」 あれ?詩音の出迎えがない。 いつもほわほわとした雰囲気で俺を迎えてくれるのに。 「しおーん?詩音、どこ?」 荷物をどさりとテーブルの上に置き、部屋を見回すが詩音が見当たらない。 どこに行った? なおも詩音の名を呼びながら探していると、寝室でことりという音がした。 不審に思いドアをそっと開けると… 布団に丸まった詩音がいた。 「すまない。お昼寝だったのか。 …起こして悪かった。」 出て行こうとする俺に 「…継…こっちに来て…」 か細い声がした。 え…? 詩音からはふわりふわりと、あの懐かしい甘い匂いが漂ってくる。 「…詩音?どうしたんだ?気分でも悪いのか? 具合が悪いなら、病院に行かないと…」 「…違うの…いいから、来て。」 その声に誘われ、ベッドの端に腰を掛けて少し出ている頭を撫でてやる。 「詩音?」 布団の中から細い腕が伸び、その指先に小さな正方形が摘まれていた。 不思議に思い じっと見ていると、詩音は腕をぐいぐい伸ばして、俺の目の前に突き出すような格好になった。 まさか。 まさか!? 俺はソレを右手でそっと受け取った。 そして左手の手の平に乗せてみた。 まさか!本当に!? 詩音を見ると、耳まで真っ赤になっていた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!