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のんびり②
ぼんやり外を眺めていたが、はっと気付いて少し温 くなったお茶をひと口飲んだ。
暖房で乾燥していた喉に染みていく。
ほおっ とため息をついた。
一年前は…こんな穏やかな日が過ごせるなんて思ってもみなかった。
この会社に内定して。
アイツらに襲われかけて、Ωであることを恨んだりしたけれど。
入社してすぐに継と出会って…
頸を噛まれて番になった。
ねぇ、チビちゃん。パパってすっごく強引なんだよ!?
ぐに
あははっ。そうだね、知ってるよね。
こんなに誰かに愛されて、こんなに誰かを愛することができるなんて。
自分にそんな感情が芽生えるなんて、不思議でならなかった。
お義父さんもお義母さんも
お義兄さんも右京さんも。
麻生田家みんな俺を受け入れてくれて。
とってもかわいがってもらってる。
世間で言う『嫁姑』『小姑』なんて、全くなくって。
いつお邪魔しても、みんなからはふわふわと優しい匂いがしてくる。
俺を本当の家族のように思ってくれているのがわかる。
それは…継のお嫁さんだから。
継が俺のことを大切に思ってくれているから。
麻生田家の人達にとって大切な継が、俺を愛してくれるから。
継に出会えて、愛してもらって、本当に良かった…
ぐにっ
あっ…そうだね、ごめん、ごめん。
ご飯食べなきゃ!
「いただきます。」
両手を合わせてそう言ってから、まずみかんを食べた。
チビちゃんはどうやらみかんが大好きみたい。
悪阻で食欲がない時も、みかんだけは口にできた。
ぽこぽこ
あははっ。そうか。うん、良かった。
満足したような動きに、俺も箸を動かした。
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