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のんびり④
「詩音!」
「継…どうして?仕事は?」
あまりのタイミングの良さに驚きながらも、駆け寄ってきた継の胸にすっぽりと抱きしめられた。
あぁ…いい匂い…大好きな継の匂いがする。
そう言えば、ご飯を食べ終わる頃に何となく継の匂いがして…余計に継に会いたくなってたんだ…
胸に擦り付いて、うっとりとしていると
「打ち合わせが早く終わったから、まだ間に合うかと思って急いで帰ってきたんだ。
もう、食べてしまったか?」
「ごめんなさい…チビちゃんもお腹空いたみたいだったから、今日は早めに済ませちゃいました。
…待ってれば良かった…」
継は俺のお腹を撫でながら
「食いしん坊め。外に出てきたら、思う存分食べさせてやるよ。」
と言って笑った。
そして俺の手を取ると社長室へと連れて行く。
「まだ時間大丈夫だろ?」
「はい。三十分くらいなら。」
篠山さんは外出中で不在だった。
いつものように継の世話を焼きながら、横にくっ付いて座る。
ひと段落した頃、継に
「継、ありがとうございます。」
唐突過ぎたのか、継が『何を?』という目で見るので
「いろいろ考えてたら…こんな満ち足りた俺に変えてくれた継に、どうしても『ありがとう』を伝えたかったんです!
そんな今日に限って、継はお仕事でいなくて…寂しいなって思ってたら、こうやって帰ってきてくれて……うれしい…」
「詩音…」
「継…」
顎をそっと持ち上げられ、近付いてくる端正な顔を間近で見るのが恥ずかしくて目を瞑った。
唇がまさに触れようとしたその時
トントントン
突然のノックの音に、慌てて離れた。
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