524 / 829

(番外編)真澄の平穏な一日①

〈継が詩音と出会う前の一コマ〉 今日も麻生田家は賑やかだ。 「かぁちゃーーーん!ネクタイ、どっちがいい?」 「うーん、右!」 「うん、しっくりくる。 流石、俺の真澄はセンスがいいな。サンキュ♡ 用事済んだらすぐ帰るからな。待ってて。 一人にしてごめんな。」 ちゅ 「はいはい。早く支度して下さいね。」 「お義母さーん!保冷バッグどっち?」 「水玉の方!右京君、あと五分だよ!」 「ヤバーい!」 「母さーーん!夕方五時頃荷物届くから受け取ってー!」 「はいはい。」 「「「行ってきまーす!!!」」」 「行ってらっしゃーーい!」 一気に静まり返った部屋。 俺は大きく息をついて、今日も“朝の戦争に打ち勝った感”に満足していた。 「さーて、第二弾!始めるよっ!」 一人で気合を入れて、キッチンの後片付け、洗濯物干し、掃除機掛け…次々とこなしていく。 「今日は天気がいいからガラスも磨こう! 追加だ!!」 「ふーーっ…終わったぁ…」 ソファーにぽすんと座り時計を見ると、もうお昼近かった。 「もう、こんな時間か…ちょっと張り切りすぎたかな。」 一人だと独り言が多くなるのはご愛嬌だ。 「そうだ!お昼は公園で食べよう!」 思い立ったら即行動。全くΩらしくないΩ。 残りご飯でおにぎりを作り、お昼に食べようと()けておいたおかずを詰め、戸締りを確認すると家を出た。 柔らかな風に吹かれ、近所の公園のベンチに座る。 「いただきまーす。」 食材に感謝して手を合わせるのは小さな頃からずっと変わらない。 米粒一つでも残したら、親にこっ酷く叱られた。 お陰で裕福だと噂される家に嫁いでも、それに驕ることなく物を大切にしてきた。 [どんな人にでも『ありがとう』と『ごめんなさい』が言えるように。] 母親はいつもそう言っていた。 子供達にも同じように教え、育てた。 あの子達を見ていると…(ひね)くれながらも、それはどうやら実行してくれているようだ。 右京君にとっての出会いは最悪だっただろうが、潤はかわいいお嫁ちゃん(右京君)を連れて来てくれて。 継はパパの跡を継いでくれた。 後は継にお嫁ちゃんが来れば…俺の子育ても終了だな…

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!