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こんにちは赤ちゃんside:潤⑤

心臓がバクバクしている。 右京の顔色が段々と青白くなっていく。 俺の胸元をきゅっと掴むその指が震えている。 「右京っ!絶対大丈夫だからっ! すぐ病院に連れて行ってやるからなっ!」 そっと抱き上げて、玄関へ向かった。 お袋が玄関に車を回し、後部座席のドアを開けて待っていた。 俺達が乗り込むのを待ってドアを閉め、玄関の鍵を掛けて戻ってきた。 「右京君、赤ちゃんに会えるよ! もう少し…頑張ろうね!」 「…はい。」 ひたすらに「大丈夫だ」を繰り返しささやく俺は、右京を抱きしめ、一分でも一秒でも早く着くようにとそればかり思っていた。 「着いたよ!あ、香川先生だっ!」 救急搬入口に車を停車させると、右京はすぐさま準備されたストレッチャーに乗せられた。 「先生っ、右京が、右京がっ!」 「落ち着け、パパ。 大丈夫。もうすぐ赤ちゃんに会えるよ。 しっかりしろ! 右京君、心配しなくても大丈夫。 立ち会いは?しなくても良かったよね?」 「…はい。しなくていいです。」 「じゃあ、行くよ!もうすぐご対面だ。 潤、真澄さんと三階の分娩室の前で待ってて。 おーい!みんな頼むよー!」 ガラガラと運ばれていくそのストレッチャーを追い掛け、縋るように引き止め 「右京、待ってるから。」 手を握ると 「行ってきます。」 と潤んだ目で見つめてきた。 そっとおデコにキスをして頬を撫でると、すりすりと擦り寄ってきた。 「俺たちの家族が、増えるからな…」 ふにゃりと微笑んだ右京にもう一度キスをして送り出した。 「潤!分娩室に行くよ!」 車を駐車場に置いてきたお袋が、俺を引っ張っていく。 男らしい。我が母親ながら、やっぱりこの人は頼りになる。

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