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こんにちは赤ちゃんside:潤⑩
今度こそ本当に二人っきりになった。
「…潤、ありがとう…」
「右京、俺の方こそありがとう。お休み…」
ちゅっ ちゅっ と啄ばむようなキスを交わして、おデコをくっ付けて微笑む。
これ以上は右京の身体に障るから、180%の理性で押さえ込んだ。
ふにゃり とかわいい笑顔を残して、右京は すとんと眠りに落ちた。
しばらくその寝顔を見続ける。
段々と重くなるお腹を抱え、変わっていく身体も心も受け止めて、そして痛い思いをして俺の分身を産んでくれた右京。
そっと髪の毛を掻き上げてやる。
擽ったかったのか、少し頭を振り、また静かにピクリとも動かず寝息を立て始めた。
愛おしい。愛おしくて堪らない。
心の奥から湧き上がる思いに耐えかねて、涙が出てくる。
この世に こんなに、こんなに大切なものがあるなんて。
愛してる。
愛してるよ、右京。
そんな言葉で思いの丈は伝えられないけれど。
…お前、やっぱりバースのこと気にしてたんだな。
元気なら、男でも女でも、αでもΩでも、どっちでもいいじゃないか。
そうは言っても…お前にとっては物凄く大きな問題だったんだろうな。
俺達の子供に変わりはないんだぞ?
でも、Ωだったら溺愛するところだったぞ。
ははっ。
「…うっ…痛い…」
呻き声と一緒に、か細い声が聞こえた。
「右京?大丈夫か?」
「…潤…いてくれたんだ…んっ…聞いてた通り、痛い…」
「痛み止めもらおう。な?」
「…ん、お願い…」
麻酔が切れたのか…普段は絶対に弱音を吐かない右京が、辛そうだ。
代われるものなら代わってやりたい。
やがて来てくれた看護師さんから痛み止めをもらい、少し落ち着いた右京は、また眠りについた。
命を紡ぐ、生み出すというのはこんなに凄いことなのか。
俺は目の前の愛しい夫 に畏敬の念を込めてキスをした。
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