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ユルい相談④
そのまま突き当たりの小さな部屋に押し込まれた。
継は扉の札を『使用中』に替えて、俺の前に立った。
「兄さん」
「なっ、何だ?」
継の、威嚇にも似たオーラに少々ビビりながら、あれこれ思いを巡らす。
コイツに何かした覚えはないはず…
勿論、詩音君にも…
突然、継が頭を下げた。
「恥を忍んでお願いしますっ!
あの…ヨメの出産前後の、ダンナの性欲の抑え方を伝授して下さいっ!!」
俺は目をこれ以上ない程見開き、図体のデカくなった弟を見つめていた。
あ?
何言ってんの?
性欲の…?
頭を下げた継の耳が真っ赤になっていた。
あー…これ、マジだ。コイツ、真剣だ…
不憫だ…継、俺達兄弟、不憫だなぁ…
「おい、頭上げろ。笑わないから。」
ちょっぴり涙目の継が、ゆっくりと頭を上げた。
「…こんなこと、兄貴にしか聞けない…」
身体を小さく丸める継が、幼い子供に戻ったように錯覚した。
「なぁ、継。
ヨメを好き過ぎる俺達は不憫だなぁ。
かわいくてかわいくて、構いたくて愛したくて堪んないのに。
ウザがられて、邪険にされて。
あのさ…さっきも。お前達が来る直前も、右京に叱られてたんだ。
『しっかりしないと家出するぞ。』
ってさ…
止めようがないよ。抑えられない。
無理だよ。
かわいくて仕方ないんだ。
愛して愛して愛しまくりたいんだって。
だから…ごめん。
今もそうだけど、フルスロットルの理性で我慢するしかないんだってば。
伝授もへったくれもねーよ。
そりゃあ、妊娠中は、時々右京も相手をしてくれてたよ。
でも、それこそ『時々』だよ。
出産後なんて、その『時々』すら擦り減って無くなってるんだ…
…俺が教えてほしいくらいだよ。」
「…兄貴…」
継の視線が同類を見る目に変わった。
「…継…」
身を乗り出してハグし合う。
背中をバシバシと叩き合い、慰め合う。
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