557 / 829
ユルい相談⑥
どんよりとした雰囲気のまま、そっとドアを開けると、愚図る優をあやしながら女神のような微笑みをたたえ、詩音君と話す愛しい番の姿が目に入った。
丁度そこへ、少し空いたレースのカーテンの隙間から、柔らかな光が一直線に差し込んだ。
あぁ…神々しい…そこだけスポットライトが当たってるみたいだ…
贔屓目じゃない。
綺麗だよ、右京…美しくて崇高だ…
入口からフリーズして動かなくなった俺の肩越しに、訝しんだ継が覗き込んだ。
「うわっ…凄い…中世の絵画みたい…」
継はボソリと呟くと、俺を引っ張ってドアを閉めた。
「兄貴…ダメだよ。
あんなの見たら、手ぇ出せねーだろ?
右京さんと詩音が重なって見えた…
次元が違う…邪な気持ちが吹っ飛ぶよ…」
「…本当に吹っ飛んだのか?」
継は、首を横に振り真顔で答えた。
「やっぱ、無理。」
まるでコントみたいな答えに、ガクリと力が抜けた。
「何だよ、お前…まぁ、いいや。
とにかく、親父に聞こう。な?」
無言で、こくこくと首を縦に振る継の頭をぽんぽんと撫で、もう一度部屋へ入った。
右京とは「一度帰って、洗濯物持ってまた来るから。」とキスして別れた。
辛い。
ひと時でも離れたくない。
それなのに右京は
「ここで自分でできるからいいのに。
今日はもう、帰ってゆっくりして。」
と、素っ気ない。
尻尾の垂れた犬のように、ちょっと涙目で家に向かう。
情けない。
後ろから、継の車がついてくる。
俺だけ…俺だけ、こんなに右京のことを思ってるのか?
右京の気持ちは、全て優に取られちまったのか?
分かってるよ。身体も心もクタクタだって。
出産って命懸けなんだって。
でも…でも…
そうこう思っているうちに到着してしまった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!