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ユルい相談⑩

…鼻を(すす)りながら兄貴が呟く。 「も一つオマケに言うと…ずっと俺の腕の中で啼かせていたい。」 「うわっ…鬼畜…」 「何言ってんだ。お前だってそうだろ?」 俺も鼻を啜ってため息をついて 「…はい、認めます…」 「ま、こんな俺達だから、しばらく薬の厄介になろうじゃないか。 相手の匂いを確認しながら…な。」 「うん…仕方ないな…」 そうして俺達は、話を聞いた香川先生に思いっ切り笑われながらも… 「俺も一緒だから。俺だけじゃない、世間のαはみんなそうだよ。」 と慰められて、少し気分が落ち着いた。 継は『車で待っとくよ』と気を利かせてくれ、病室を覗くと、右京と優が すやすやと眠っていた。 着替えを片付け、二人の寝顔を見つめる。 「右京…俺は幸せだよ…」 不意に口をついて出た言葉に反応した右京が、ゆっくりと目を開けた。 「潤?もう来てくれたの?」 「うん。着替え、いつもの所に入れといたから。 優、いい子で寝てるな。」 「いつもありがとう。 ふふっ。誰かさんと違ってお利口さんだからね。」 「…右京、あのな。」 躊躇しながらも、薬のことを話した。 右京は起き上がり黙って聞いていた。 「じゃ、また明日来るから。」 照れ臭くて立ち上がった俺の背中に、温かな塊が しがみ付いてきた。 「右京!?」 「…ごめん、ごめんね、潤。 でも、もう少し…もう少し我慢して… 俺、今、自分と優のことで精一杯で… 潤のことも分かってるんだけど…ごめん。」 俺は向き直り 「謝るな。これは俺自身のことだから。 その時期が来たら…抱くぞ。」 頬を流れる涙を舐め取り、キスをして 「右京、愛してる。」 理性を振り絞り、病室を後にした。 「継、サンキュー。」 「うん。俺こそ。」 それっきり沈黙した車内。 それでも俺達はそれぞれに満たされていた。

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