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嫁姑…⑧

それって、手作りの物だったんだ。 分量と作り方を聞いて、材料もできるだけ当時の物に近い物を買い求めて。 牛乳も、真理子さんの実家の御用達の牧場まで車を飛ばして買いに行ったなぁ… 溶けちゃうから、暖房もつけずに底冷えのするキッチンで作ったんだ。 ステンレスのボールに氷と塩を入れて、その上に材料を入れたボールを冷やしながら、ブレンダーじゃなくて泡立て器でひたすら混ぜる。 ステンレスだから、ダイレクトに冷えた温度が伝わるんだ。 手は、かじかんで真っ赤になるし感覚はなくなってくるし、全身が冷えておかしくなりそうだった。 それでも必死だった。 やっと出来た物を綺麗なガラスの器に盛り付けて持って行った。 ドキドキしながら見てたよ。 スプーンで掬って、ひと口。 真理子さんは黙ってる。 あぁ、これでもダメか、どうしよう、と泣きそうになったその時、真理子さんが俺の目を見て 『真澄さん、あっぱれ。』 それを聞いた時、頭が真っ白になった。 初めて俺と目を合わせてくれて。 『あっぱれ』…『あっぱれ』って…褒め言葉? ぼぉーっとしているうちに、真理子さんは完食していた。 空になった器をサイドテーブルに置くと、俺の手を両手で包んで 『こんなに冷えて…真澄さん、ありがとう。』 もう、後から後から涙が溢れて、その場に(うずくま)って大泣きしたんだ。 そしたら…真理子さん、俺の頭を撫でてくれた。 その時から、物を投げたり無視したり、今まで散々受けてきたありとあらゆる嫌がらせがピタリとなくなった。 そればかりか、俺が行くのを待っていて、食事も喜んで食べて、そのうち一緒に食べてくれと言われるようになり、時間になって俺が帰ろうとすると残念そうな顔をするようになった。 段々と身体も弱って、もう一人暮らしは無理だと、パパに同居を提案すると却下された。」

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