573 / 829
誕生②
それから半月後。
楽しくて賑やかな生活に慣れてきた頃…出産の日を迎えた。
朝ご飯は抜き、シャワーも浴びて、部屋の片付けも済ませた。
どうせ俺がいない間に、継が散らかすんだけれど。
継はぶつぶつ言いながら、何度も何度も時計を見ては、荷物のチェックをしている。
「継!落ち着いて下さい!
あなたが入院する訳じゃないんですからっ!」
「ホントにもぉーっ。
継、あんたサッサと仕事に行きなさいっ!
いたら邪魔。」
俺とお義母さんに半ば邪険にされている継は、それでもめげずに
「仕事は前から休暇申請してるから問題ないっ!
準備万端にしてやらないと、詩音が困るだろ!?
」
「…継君、大丈夫だよ。
もし何か足りないものがあれば、俺が届けるから…」
「でも、右京さんっ。
詩音はお腹を切って痛い思いをするんだよ!?
できるだけのこと」
「はい、ストップ!心配しないで大丈夫。
確かに痛いけど、赤ちゃんの顔を見たらそんなのすぐ忘れちゃうよ。
パパはジタバタしないで、どぉーん と構えててよ。」
「…何かつい最近の自分の姿を見ているようで…うわぁ…こんなヒドかったのか…ぷぷっ、笑える…」
「継、お前が産むわけじゃないんだから。」
みんなに笑われ揶揄われつつ、檻の中の動物みたいに落ち着きなくウロウロする継を見てると、おかしくて仕方がない。
いつもαらしく堂々と構えてる継のこんな姿は貴重だ。
思わずこっそりと動画で撮ってやった。
継はそれにも気付かない。
ふふっ。今後何かあった時のネタにしよう。
そんな挙動不審な継を見ていると、逆に俺は冷静になってきた。
お義母さんと右京さんは
「大丈夫」
「もうすぐチビちゃんに会えるよぉ〜」
と言ってくれて、何だかワクワクの方が大きくなってきた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!