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誕生④
いつまでたっても男は子供なんだな…
俺もそうかも…
じっとバックミラー越しに継を見ていると、信号待ちの継の視線と打つかった。
継は何か言いたげだったが無視して、見つめていると、唇が動いている。
何?何か言ってる…
『ア・イ・シ・テ・ル』
頬を赤く染める俺を見て満足したのか、真っ直ぐ前を向いて運転し始めた。
そんな…今更そんなこと言わなくても…わかってるよ…
意地悪…
そうして車が病院に着く頃、また緊張してきた。
俺だけ診察室に入り、いろいろな検査を受けた後、同意書にサインをして、手術室へ向かう。
「しっ、詩音!待ってるからな。」
継は俺の手を握りしめて離さない。
「継…手を離してくれないと…」
バシッ
「痛っ!」
継の頭に、すかさずお義母さんのスマッシュヒットが炸裂した。
手が離れた隙にストレッチャーが動き出した。
「詩音っ!」
あぁ、もう…今生の別れではないのだから…
恥ずかしい…
「ご主人、とっても心配なのねぇ…羨ましいわ。
うちなんて『じゃあな』ってあっさりと。」
「あらー、うちなんて、呑んだくれてて何の役にも立たなかったのよー。」
看護師さん達が大笑いしている。
「…でも、恥ずかしいです…」
「愛されてる証拠よ!
さあ、愛するご主人のためにも、頑張りましょうね!」
「…はい。」
局所麻酔を選んだから、ずっと意識がある。
チクリと刺さる麻酔の針の痛みも、もうどうでもよかった。
すぐに赤ちゃんも抱っこできる。
どんな子が生まれてくるんだろう。
元気かな…指はちゃんと五本あるだろうか…
…この子のバースは…
今更ながらぐるぐると不安な気持ちが渦巻いていた。
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