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誕生⑥
お義父さん達から『元気なら何でもいい。とにかく身体を大事にして。』と言われて、自分もそのつもりでいたけれど…αだと聞いたらホッとした。
肩の荷が下りた気がした。
麻生田家の嫁達は、きっと、こんな思いをしていたのだろう。
比較したり対抗する気持ちは毛頭ないんだけれど、義兄嫁の右京さんの…生まれた子供はαだった。
お義兄さんが、俺に気を使ってこっそりと継に言ってたのが聞こえた。
『多分、絶対的αだ』と…
正直、羨ましかった。
ほんの少し生まれた、自分の汚い気持ちが嫌だった。
『元気なら何でもいい』
と言われたその言葉に嘘偽りはないと思う。
そう確信していても、やはり…俺は心のどこかで生まれてくる子のバースを気にしていたのだ。
ごめんね、チビちゃん。
心の狭いママで。
Ωだったら、また俺みたいな思いをさせてしまうと…そう思ってたんだ。
それに…この家は、α…それも絶対的αが生まれる家…
そもそも、絶対的αとスーパーΩからは、ほぼ100%の確率で絶対的αが生まれるそうだけれど、もし違ったら、この子は……
そんな風に思ってしまっていて、頑張って育って生まれてきた我が子に申し訳ない気持ちで、胸がぎゅうっ と痛くなった。
つ…っと涙が溢れてシーツに吸い込まれた。
とにかく安堵感に包まれ、いろんな思いが交錯している。
看護師さんが声を掛けてきた。
「詩音さん、もう少し様子を見てからお部屋に行きましょうね。
お義母様もパパさんも大喜びでしたよ。」
「…はい、ありがとうございます。」
右京さんは『出産時に出血が酷くて部屋に戻ってくるのに時間が掛かった』と言っていたけど、俺はそうでもなかったらしく、この調子でいくと、割と早くに部屋に戻れそうだった。
継…お義母さん…喜んでくれてるんだ。
良かった…
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