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誕生⑦
うとうとしかけた時に、名前を呼ばれた。
「詩音さん、お部屋に移動しますね。」
「…はい。お願いします。」
ドアが開いた途端
「詩音っ!!!」
目に薄っすらと涙を溜めた継が、喜びの匂いを撒き散らして飛び付いてきた。
「詩音…詩音、よく頑張ったな…ありがとう、詩音…
チビちゃんは、お前に良く似たイケメン君だったよ!」
「詩音君、おめでとうっ!
詩音君もチビちゃんもよく頑張ったね、おめでとう!」
「詩音君、ゆっくり養生して…
これでまたうちは賑やかになるぞ!
今夜は宴会だー!」
継…お義母さん…お義父さんも…
みんなの顔を見たら、また気が緩んで泣けてきた。
「ほらほら、皆さん、感激のご対面はまた後で!
今は詩音さんをゆっくりと休ませてあげて下さいね!」
看護師さんにたしなめられても、悪びれる風もなく笑う三人。
継は、お義母さん達に先に帰るように伝え、俺の手を握ったまま付いてくる。
右京さんに聞いたけど…やっぱり兄弟だ。
やることおんなじ。
今度教えてあげよう。
繋いだ手と匂いから、じわりと継の思いが伝わってくる。
その温かさを感じ取って、段々と瞼が重くなってきた。
目覚めたのは、お腹の痛みから。
「痛ぃ…」
「詩音?大丈夫か?看護師さん呼ぶから。」
ぼんやりとまだはっきりしない意識の中、痛みだけが強くなってくる。
「…継…どうしてここに?」
「香川先生に頼んだ。『兄貴の時も一晩泊まらせただろ!』って。
「お義母さん達は?」
「帰らせたよ。明日また来るって。
お袋、スキップしながら帰って行ったぞ。」
くっくっと喉を鳴らしながら継は笑い、急に真顔になると
「詩音、本当によく頑張ったな。ありがとう。
チビちゃんも元気だ。」
そして、優しく…触れるだけのキスをした。
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