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誕生⑧

今度は鼻先にキスをすると 「チビちゃんの名前…考えたんだけど…」 「うん、教えて。」 「漢字一文字で…“人偏(にんべん)に漢数字の二”で『(じん)』 麻生田 仁。 仁には『いつくしむ』『思いやり』とか『徳を備えた人』とか言う意味があるんだって。 詩音みたいに思いやりを持った人間になってほしいから…どうかな?」 仁、じん…麻生田 仁…素敵! 「いい名前だね。継、ステキな名前をありがとう… 俺が思いやりがあるかどうかは別として、チビちゃんにはそうなってほしいな… 仁…仁!お義母さんにも知らせなくっちゃ! あっ、痛いっ…」 急に身体の向きを変えようとして、激痛が走った。 「詩音!まだ動いちゃダメだよ!大丈夫か?」 そこへタイミングよく看護師さんがやってきた。 オロオロする継と涙目の俺を見て 「もう、パパさん!泣かしちゃダメっ! 先生に見つかったら強制帰宅させられるわよ! 詩音さん、はい、取り敢えずお薬飲んでね。」 「ありがとうございます…でも、主人のせいじゃなくて、俺が急に動いたから…」 「ふふっ。分かってますよ! 明日から少しずつ運動していきますからね。 今日はゆっくりと身体も心も休めて下さいね。 何かあったらすぐにナースコール押して下さい。 すぐ駆けつけるから。」 「ありがとうございます。」 再び二人っきりになった。 「詩音、俺付いてるから、少し眠るといい。 本当にお疲れ様。愛してるよ。」 「…継…」 継の手の温もりと匂いが心地良くて、目を閉じた途端に、ぐっと夢の世界に引き摺り込まれていった。

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