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誕生⑨

次に目覚めた時には、まだ少しお腹は痛かったけれど、薬のお陰か 幾分楽になっていた。 外は夕暮れ時で、下校する子供達の賑やかな声や、車の行き交う音が遠くから聞こえていた。 右手の温かさに気付いて視線をやると、継が俺の手を握りしめたまま、眠っていた。 俺と同じように緊張して喜び過ぎてくたびれたんだろう。 それから解放された今、優しくて柔らかな匂いが継から流れてくる。 あなたの子供をこの世に送り出すことができました。 “仁”…素敵な名前を付けてくれてありがとう。 あの子は、αだった… Ωじゃなくて良かったと思う自分がいる。 偏見を持っているのは俺じゃないのか? 俺は、バースを気にして誕生を素直に喜べなかったのではないか? αだと分かったから喜んだんじゃないのか? Ωだったら…こんなにうれしかった? 自分の嫌な感情が、どろりと漏れてくるようだった。 ぐすっ…ぐすっ… 耐え切れずに涙が出てくる。 お腹に力が入って痛い。 「詩音?痛むのか?大丈夫?」 慌ててナースコールを押そうとする継の手を止めて叫んだ。 「違う!違うから…」 継から慈しむような匂いが漂ってきた。 泣きじゃくる俺をそっと抱きしめた継は 「心配してたんだろ?あの子のバースを。」 びくり と身体が跳ねた。 どうして?何も言ってないよ!? ゆっくりと身体を離した継は、俺の涙をそっと拭き取ると 「親父や兄貴に言われた。 『きっと、バースのことを気にするはずだ』って。 お袋も右京さんもそうだったから、って。」 お義母さん…右京さんも? 「ホントに我が家の嫁達は…詩音、バースは関係ない。心配いらない。 余計なこと考えるのは止めろ。」 その言葉にますます泣けてきた。 困り顔の継の顔はもう、涙で見えなくなった。 継は泣き止まぬ俺をいつまでもいつまでも抱きしめてくれていた。

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