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マタニティブルー⑤

すぅすぅと寝息を立てて眠る仁から、穏やかで清らかで、優しい匂いがしてくる。 その匂いを嗅いでいると、胸の奥から優しい気持ちが全身に行き渡ってくるのが分かった。 純真で真っさらな、愛おしい存在。 湧き上がる言いようのない感情に満たされ、仁の頬っぺたにキスをしてベッドに寝かせると、俺はぼんやりと仁を眺めていた。 コンコン 「詩音くーん…ただいまぁ…」 小声でそっとドアを開けながら、お義母さんと継が入ってきた。 継は片手に花束、片手にレジ袋を下げている。 「あ、仁君寝ちゃったんだ。 やっぱりママが好きなんだね。 あのね、ここの売店凄いの! 初めて行ってみたんだけどね、手作りの美味しそうなパンやお菓子がたくさんあるんだよ。 春を先取りみたいなお花も売ってたから、ついつい買ってきちゃった。」 ほら、ね! と継の方を振り向いたお義母さんは、紙に包まれた花束を継から奪い取ると、差し出してきた。 「ね。かわいいでしょ!?」 柔らかなピンクのスイートピーが顔を覗かせていた。 「うわぁ…かわいい…お義母さん、ありがとうございます。うれしい。」 「ふふっ。よかったぁ。 今チューリップを生けてるけど、これもいいよね。 継、花瓶出して。」 継が ごそごそとビニール袋を漁って、お義母さんに手渡すと、すぐに生けてくれた。 ピンクの加わった空間は、また華やかに明るくなった。 「…素敵…」 思わず言ったひとり言が聞こえたらしく 「うんうん。これで良し。 詩音君、俺、これからパパとデートなんだ。 継を置いていくね。 明日、また来るから。 仁君、まーちゃん、また明日来るからね。 じゃあねー。」 お義母さんは、うれしそうに くふんと微笑むと、足音も軽やかに去って行ってしまった。

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